SARAHスタディの測定項目で鍵となる,特に重要な結果は何ですか?

 手の機能の改善と,ご自身の状態に対する主観的評価での改善が得られたことが重要な結果です.手の機能の評価には「ミシガン手の質問紙」を使うと良いでしょう.初回と,最終の外来訓練時に評価をしてください.RAの方の主観的評価には,GRoC質問紙(注1)を最終の訓練時に用いることをお勧めします.

SARAHプログラムをするとき,一度にすべての運動を行う必要がありますか?

 いいえ,一度でする必要はありません.例えば,可動性エクササイズと筋強化エクササイズを別々の,ご本人が行いやすい時間に分けてすることができます.

装具やスプリントをつけて,SARAHプログラムを実施してよいですか?

 その必要はありません.我々は装具やスプリントを外して実施することをお勧めします.種目により,装具等をつけたままでは難しいものがあるからです.SARAHプログラムを実施するとき,痛みの緩和やサポートのために装具やが必須であるようならばエクササイズの内容をご本人の状態に合わせて調整(易しく)してください.そうすれば,問題なくSARAHプログラムを継続でき,かつ,後に調整をせず実施できるようになれば,その進歩を一緒に確認することができます.

深刻な関節の痛みや炎症を認めるときはどうしたらよいですか?

 これまで行っていない新しいエクササイズを始めてしばらくは,少し不快な感じがあったり痛みがあったりします.もし,不快な感じや痛みが2時間以上続くのであれば,エクササイズの実施回数もしくはセット数を減らしましょう.痛みが落ち着いたら,徐々にエクササイズをもとの回数に戻していってしてください.

 RAの炎症の再燃は時々起こりうることでもあります。関節が熱感を持っていたり,腫れていることに気づいたら,その日はSARAHプログラムを実施しないでください.症状が続く,もしくは悪化するようであれば,できるだけ早く担当のセラピストに確認してもらうか,かかりつけのRA専門医など,RA関連の医療職に相談してください.

 症状が落ち着いてから,SARAHプログラムをゆっくりとそして段階的に再開してください.

【セラピストからの質問】もし,担当している患者様が追加の外来訓練を希望したら?

 6回の外来訓練でSARAHプログラムは十分に提供できるように作られています(訳者注:初回評価と,5回のエクササイズセッションという構成だが,初回評価時にエクササイズ指導をした場合は5回で提供可能である).直接もしくは電話での再指導などの機会を追加で持つかどうかは,セラピストそして実施されるご本人の都合により判断してください.ただし,追加の外来訓練や電話相談などのセッションを用意するのは,対象者にSARAHプログラムを自力で継続する自信を持っていただくためだということを忘れないでください.

【セラピストからの質問】エクササイズ指導のための外来訓練は必ず5回分行わなければいけませんか?何回外来訓練をすればいいのでしょうか.

 SARAHプログラムを実施するために合計6回の外来訓練の時間を持つことが理想的です(初回評価,エクササイズ指導5回,最終評価).しかし,施設によってはこの回数を行うことが難しいことがあるでしょう.また,SARAHプログラムを実施するご本人が目標を立て,自宅でエクササイズを継続することに対しどれだけ自信を持つことができているかによっても実施回数の必要性が変わるでしょう.

 私達SARAHチームは,初回と最終の外来訓練のほかに,最低でも2回の外来訓練におけるエクササイズ指導の時間を持つことをお勧めします.それよりも少ない場合は,電話での面談時間を設けるなど,ご本人のサポートができる方法を考え実行してください.

一度の外来訓練は,おおよそ何分かかりますか?

 初回評価の際は,おおよそ45分かかります.それ以降のセッションはおおよそ30分程度です.

●エクササイズの種目を減らしてもよいでしょうか?

 はい.SARAHプログラムは個々に合わせたエクササイズプログラムです.それぞれの方のニーズや能力に合わせられます.もし,エクササイズ実施に困難があれば,セラピストが評価を行い,エクササイズの回数を減らす,エクササイズを変更する,ある種目を削除するといった変更を加えていただいて構いません.

主観的運動強度スケール(RPEスケール)を使用する必要がありますか?

 適切な強度と回数のエクササイズを実施し筋力を改善するために,改訂版ボルグスケールを用いて主観的な運動強度を評価することを我々は推奨します.このスケールは10段階です.簡便で,すぐに結果が出るという利点があります.訳者注:この資料は邦訳したSARAH実施のための資料に含まれています.

●SARAHプログラムを行う際に,ほかのエクササイズ備品を使ってもよいですか?(例えば,訓練用粘土がないときなど)

 はい.粘土の代わりにラバーバンドやゲルボールを使っていただいてもかまいません.逆に,ゲルボールを使用せず粘土で実施していただいても構いません.訳者注:日本語版作成時に,ゲルボールを用いず粘土で実施する形式に許可を得て変更しています.

「パーソナルエクササイズガイド」用紙は対象者とセラピストの二人で完成しなければいけませんか?

 はい.目標設定や行動計画を形作るために協働し,目標を一緒につくることはご本人のエクササイズ継続への意欲を高めるために大変重要です.このSARAHプログラムの要と言えます.「パーソナルエクササイズガイド」用紙を初めて作るときは少し時間がかかりますが,2回目以降の外来訓練時には短い時間で作成できるようになります.

担当の患者様が,SARAHプログラムの継続に苦労しています.どう対応したらよいでしょうか?

 外来訓練時に,エクササイズ完遂を妨げる要因は何か話し合う時間を数分取ってください.「障壁と促進因子」の用紙を使っても良いでしょう.ご本人のアドヒアランス向上を妨げる要因を明らかにしましょう.問題点を明らかにし,ご本人を巻き込んで話し合い,実施できそうな解決方法をともに探してください.

 方法の例として,目標を新たに立て直すこと,エクササイズを変更すること,実施回数を減らすことなどがあります.

SARAHプログラムの実施中に質問が出てきた際の問い合わせ先はありますか?

 外来訓練の際に必要な情報はすべて得るようにしてください.このFAQを見てもわからない点があれば,SARAH研究会のお問い合わせフォームでご連絡いただくか,訳者,原著者らのSARAHチームにお問い合わせください.

 SARAH研究会のサイトURL:http://sarah-ra.jp/

 原著者SARAHチームメールアドレス:sarahexercise@ndorms.ox.ac.uk

 邦訳者代表のメールアドレス:megumi_nakamura@morinomiya-u.ac.jp

このFAQは,原著者らの作成したセラピスト向け教育サイトiSARAHのFAQのページから許可を得て邦訳し掲載しています.

邦訳日:2019年8月25日

文末注

GroCスケール:

Global Rating of Change Scales: A Review of Strengths and Weaknesses and Considerations for Design. Steven J Kamper et al. J Man Manip Ther. 2009; 17(3): 163–170. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2762832/